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非配偶者間人工授精の現状に関する調査研究会(DI研究会)

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日本のAID事情

1. AID(非配偶者間人工授精)の経緯

 日本のAIDは、1948年、慶応大学の安藤画一教授(慶応大学)が男性側に原因があり、なかなか妊娠しない夫婦に臨床応用したのが始まりです。翌年最初の赤ちゃんが出生しました。当初、第3者の精子を用いるという倫理的な問題を含むため、反対意見もありましたが、「赤ちゃんを希望する夫婦のために」と法的な規制はなく実施されてきました。1992年に男性不妊の治療に顕微授精が導入され、AID選択者は減少したといわれているものの、産婦人科学会の報告では、年間平均1,608組前後の夫婦がAIDを受け、164名の赤ちゃんが出生しています。(1998〜2002年平均)

非配偶者間人工授精の治療成績
  患者総数 AID周期総数 妊娠数 出生児数
1998年 1711 3497 285 188
1999年 1134 6059 343 221
2000年 1350 5838 257 119
2001年 1322 5701 260 161
2002年 2521 3649 265 133

 1995年頃より、インターネットを通じた商業目的の精子売買活動が明るみにでたことから、日本産婦人科学会は、これらを規制する目的から、1997年「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解(http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/H9_5.html)を会告しました。これには、AIDを実施する夫婦の条件、実施夫婦や生まれた子どもへのプライバシーの配慮、精子提供者の条件、精子提供者のプライバシーの保護と記録の保存、営利目的での精子提供の斡旋のもしくは関与の禁止、施設登録の厳守が明記されています。また、同時期に、精子提供者からの精子・精液を介しての女性や胎児への感染を防ぐ為に凍結精子を用いること、夫婦双方の同意確認として、AID実施毎に、同意書(夫婦それぞれの署名入り)の提出を義務づけました。現在23の医療施設が学会に登録し(2004年10月現在)、各々の施設ごとに独自のガイドラインを設けています。

2. AIDの認知度

 ここ数年、生殖補助医療の法制化への取り組みや少子化問題で、社会的に不妊治療への関心は高まってきました。それに伴いAIDという言葉を聞く機会も増えてきました。しかし、AIDで子どもを授かった夫婦や生まれた子どもがどんな問題を抱えているのか、精子提供した男性はどのように認識しているのか、その実態を知ることはできにくい現状にあります。それは、もともとAIDを選択する夫婦が少数であること、第3者の精子を使用するため、周囲や社会から理解が得られにくいことがあげられます。それゆえ、AIDを受けた夫婦は自分たち親子の生活を守るために、兄弟姉妹や親友、両親にすら自分たちのAIDについて多くを話すことはありませんでした。また、精子提供者は、自身の匿名性を維持するためにも口外することはなく、実施者(医師)は、双方のプライバシーを厳守・保護するために、実施以後に積極的に連絡をとったりすることはなく、フォロー体制を持つこともありませんでした。AIDに関わるそれぞれの当事者が語らないことで、AIDはさらに社会から理解されにくく、特殊な事情の人の選択として位置づけられてきました。

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3. 夫婦がAIDを実施するまでの手続き

 「『非配偶者間人工授精と精子提供』に関する見解」では、AIDの対象夫婦を、「本法以外の医療行為によってよっては、妊娠の見こみがないものと判断され、しかも本法によって挙児を希望するもの」としています。精液検査で無精子症と診断された夫婦、精巣内の生検をして精子細胞が見つからなかった夫婦、顕微授精を繰り返しても妊娠しない夫婦、男性側に染色体の問題がある夫婦が対象になります。これらの夫婦は不妊治療の最終選択として、子どもを持たないで2人で生きる方法、養親になる方法、そしてAIDで親になる方法について医師より説明を受けます。
 医師の説明を受け、AIDを選択した夫婦は、医療施設に婚姻関係を証明するために戸籍謄本を提出します。医師より精子提供者の匿名性・秘密の厳守、精子の厳選・管理方法、治療の手順などの説明を受けます。生まれてくる子どもを嫡出児として認知すること、精子提供者の情報は一切与えられないことなどの旨が確認され、これらの内容が書かれた既定の「同意書」に夫婦各々が署名します。またこれとは別に、夫婦はAIDの実施毎に、AID承諾の証明として「同意書」(夫婦の署名入り)の提出が義務づけられています。これらは、夫婦の意思確認というカウンセリング的な要素を含むものというより、後に医師―患者間で起こりえる問題(医療訴訟など)を予防する書類上の手続きという意味合いが強い傾向にあるといえます。

4. AIDを受ける夫婦の気持ち

(1)AIDという選択肢を告げられて

 医師からAIDについて告げられ、それをどのように受けとめるかは、さまざまです。子どもを持ちたいと強く思っている人・そうでない人、血にこだわる人・そうでない人、不妊期間が長かった人・そうでない人、周囲から子どもを産むことを期待されている人・そうでない人、男性・女性によっても違うでしょう。それでも共通して体験していること、それは「自分達夫婦の子どもが持てない」ということです。これは大きな逸脱感と喪失体験を伴います。このような状況下で、AIDをすぐ決定できる夫婦は極少数です。しばらくの間、話合うことさえできない夫婦もいます。話すことができても価値観の違いで喧嘩になってしまう夫婦もいます。 
 AIDで親になることと養親になること、共に親になることの選択ですが、この大きな違いは、生まれて子どもと父親が生物学上の親子でなく、妻とは生物学上の親子であること、この親子関係(事実)を自分たちの意思で選択するということです。「自分たちの少しでも血のつながった子どもが欲しいと思うのは親のエゴだろうか?」AIDで親になろうとする人はこれを何回も自問します。
 男性の中には、自分の血がつながった子どもが持てない現実に人として男性としてのアイデンティティーが揺らいでいる方、それ以上に妻に子どもを産ませてやれないことに強く苦しむ方もいます。妻の子なら自分の子どもとして大切にできるという方もいます。女性の中には、夫との子どもが欲しいのであって、AID までして子どもは欲しくないという方、夫が望むなら、自分で妊娠・出産をしたい、自分の子どもを持ちたいと言う方もいます。
 上記にあげたようにAIDの情報はほとんどなく、このように悩む夫婦がAIDの体験者はもとより、研究者、心理学者、カウンセラー、家族、友人に相談することはほとんどできません。最終的には夫婦の中で自問し、夫婦の中でAIDと自分たちの人生の折り合いをつけているのが現状と言えます。
 最近は、匿名で本音が話せるというメリットからインターネットを用いて情報収集をする人も出てきました。以下のホームページはサイトの管理人の許可を得て掲載しています。
http://www.h4.dion.ne.jp/~d-funin/index.html

(2)子どもに事実を告げることについて

 夫婦にとって一番守りたいのは子どもの幸せで、そのために家族のプライバシーを守ろうと考えます。血のつながりを重視するわが国において、AIDを実施した(実施している)夫婦でさえ、倫理的に逸脱した体験と考える方もいます。
 親の気持ちを示す数少ない調査結果として、「AIDにより児を得た夫婦の告知に対する考え方」堀井雅子氏(慶応義塾大学医学部産婦人科教室)があります。114カップル夫婦(AID児0〜11才)のアンケート結果から、これまでにAIDについて子どもに告知した両親はおらず、95%以上の両親が今後も告知を予定していないことがわかります。また、子どもがAIDについて知る機会があった場合、子どもにとって遺伝上の親を探すことに協力するつもりであると、回答したのは夫22%、妻16%でした(第48回日本不妊学会 発表収録より)。
 筆者のAIDを実施している20名の女性の調査でも、「できれば子どもに告知したくない」「する必要はない」と回答した方は18名でした。その理由には、「子どもにとって、父親と血がつながっていない事実を知ることは、アイディンティーを揺さぶられる体験であるろうし、そんな辛い思いを大切な子どもにさせたくない」「生物学上の父親がどこかにいるということを子どもが知ることで、今まで築き上げて生きた家族の絆までも破壊してしまうのではないか」「子どもには自分の夫を本当の父親と思っていてほしい」を、揚げていました。それゆえに、彼女たちは、何らかのきっかけで、子どもにその事実が伝わる事をとても脅威に感じていました。自分たちのAIDについて他者に口外せず、夫婦二人の秘密として「お墓までもってゆく」と表現する女性も6名いました。
 一方、「大切な子どもだから小さいうちから隠し事のないように話してゆきたい」という回答も2名ありました。また、「もし子どもが何らかのかたちで、出生の事実を知ったらどうするか?」の質問に、「子どもが小さかったら、ごまかすが、ある程度の年齢になったらきちんと話す」「望まれて生まれてきた子であることを誠意をもって話す」「ありのままの気持ちを話す」など、子どもに真摯に向かうという回答も7名ありました。

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5. AIDで生まれた子どもの気持ち

 ここでは、偶然にもご自分がAIDで生まれた事を知り、どう感じたかを勇気を出して書いていただいた4人の手記があります。 ⇒AIDで生まれた方たちからのメッセージ
 わが国でどのくらいの数の子どもが、「AIDで出生した」ことを知っているのか全く未知のことです。手記を寄せてくださった4人の体験は、この4人だからゆえの特異な事情である部分もあるかもしれません。でも、AIDで出生した子どもたちに共通するものもあるかもしれません。子どもからの発言がない我が国で、AIDで生まれた子どもからの意見としてはとても貴重であると考えます。彼等の悲しみや怒りは、AIDで生まれたことというより、信頼している親から長年の間、自分にとって大切なことが告げられなかったこと、自分の出生が隠さなければならないことであること、生まれる前から親を知る権利を剥奪されていることにあるように伺えます。

6. 生まれてくる子どもの福祉とこれからのAID

 2003年4月、生殖補助医療(非配偶者間の生殖補助医療)のあり方について検討を重ねていた厚生科学審議会生殖補助医療部会から最終報告書が提出されました。その内容は、第3者からの精子・卵子・胚などの提供は認めるものの、近親者などからの提供は今後の検討としたほか、第3者の女性が出産する代理出産は禁止しました。生まれた子どもからの福祉の観点から、子どもの出自を知る権利を認め、子どもが15歳になり希望すれば遺伝上の親の氏名・住所などの情報を知ることができるとしました。
 今まで、医師・提供者・当事者夫婦各々が語らないことでなり立ってきたAIDが、子どもの「出自を知る権利」を尊重し、それゆえ、親の子どもへの告知や精子提供者の開示など最終報告書の提出によってあたらしい新しい局面を迎えています。親も社会も大切にしたい「うまれてくる子どもの福祉」はどうあれば良いのか、今後の社会の認識の変化や、サポート体制のあり方が問われる時だと考えます。

(文責 清水きよみ)


引用・参考文献

  1. 飯塚理八他:人工授精の推移 生殖医学の進歩と理論.産婦人科の世界 39(10) p971-977,1987.医学の世界社
  2. 吉村泰典:生殖補助医療に関する妊産婦の会告 産科と婦人科 p694-700,診断と治療者,2002.
  3. 平成13・14年度倫理委員会・登録・調査小委員会報告
    http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/Rinri/Rinri_report5510.pdf

  4. 「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解
    http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/H9_5.html

  5. 掘井雅子他:AIDにより児を得た夫婦の告知に関する考え方48(3・4)p269,日本不妊学会雑誌2003.
  6. 清水清美:AIDを選択する女性が求めている情報と支援について トヨタ財団研究成果提出中 2003.
  7. 平成15年度倫理委員会・登録・調査小委員会報告
    http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/Rinri/Rinri_report5701.pdf
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