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3. 夫婦がAIDを実施するまでの手続き
「『非配偶者間人工授精と精子提供』に関する見解」では、AIDの対象夫婦を、「本法以外の医療行為によってよっては、妊娠の見こみがないものと判断され、しかも本法によって挙児を希望するもの」としています。精液検査で無精子症と診断された夫婦、精巣内の生検をして精子細胞が見つからなかった夫婦、顕微授精を繰り返しても妊娠しない夫婦、男性側に染色体の問題がある夫婦が対象になります。これらの夫婦は不妊治療の最終選択として、子どもを持たないで2人で生きる方法、養親になる方法、そしてAIDで親になる方法について医師より説明を受けます。
医師の説明を受け、AIDを選択した夫婦は、医療施設に婚姻関係を証明するために戸籍謄本を提出します。医師より精子提供者の匿名性・秘密の厳守、精子の厳選・管理方法、治療の手順などの説明を受けます。生まれてくる子どもを嫡出児として認知すること、精子提供者の情報は一切与えられないことなどの旨が確認され、これらの内容が書かれた既定の「同意書」に夫婦各々が署名します。またこれとは別に、夫婦はAIDの実施毎に、AID承諾の証明として「同意書」(夫婦の署名入り)の提出が義務づけられています。これらは、夫婦の意思確認というカウンセリング的な要素を含むものというより、後に医師―患者間で起こりえる問題(医療訴訟など)を予防する書類上の手続きという意味合いが強い傾向にあるといえます。
4. AIDを受ける夫婦の気持ち
(1)AIDという選択肢を告げられて
医師からAIDについて告げられ、それをどのように受けとめるかは、さまざまです。子どもを持ちたいと強く思っている人・そうでない人、血にこだわる人・そうでない人、不妊期間が長かった人・そうでない人、周囲から子どもを産むことを期待されている人・そうでない人、男性・女性によっても違うでしょう。それでも共通して体験していること、それは「自分達夫婦の子どもが持てない」ということです。これは大きな逸脱感と喪失体験を伴います。このような状況下で、AIDをすぐ決定できる夫婦は極少数です。しばらくの間、話合うことさえできない夫婦もいます。話すことができても価値観の違いで喧嘩になってしまう夫婦もいます。
AIDで親になることと養親になること、共に親になることの選択ですが、この大きな違いは、生まれて子どもと父親が生物学上の親子でなく、妻とは生物学上の親子であること、この親子関係(事実)を自分たちの意思で選択するということです。「自分たちの少しでも血のつながった子どもが欲しいと思うのは親のエゴだろうか?」AIDで親になろうとする人はこれを何回も自問します。
男性の中には、自分の血がつながった子どもが持てない現実に人として男性としてのアイデンティティーが揺らいでいる方、それ以上に妻に子どもを産ませてやれないことに強く苦しむ方もいます。妻の子なら自分の子どもとして大切にできるという方もいます。女性の中には、夫との子どもが欲しいのであって、AID
までして子どもは欲しくないという方、夫が望むなら、自分で妊娠・出産をしたい、自分の子どもを持ちたいと言う方もいます。
上記にあげたようにAIDの情報はほとんどなく、このように悩む夫婦がAIDの体験者はもとより、研究者、心理学者、カウンセラー、家族、友人に相談することはほとんどできません。最終的には夫婦の中で自問し、夫婦の中でAIDと自分たちの人生の折り合いをつけているのが現状と言えます。
最近は、匿名で本音が話せるというメリットからインターネットを用いて情報収集をする人も出てきました。以下のホームページはサイトの管理人の許可を得て掲載しています。
http://www.h4.dion.ne.jp/~d-funin/index.html
(2)子どもに事実を告げることについて
夫婦にとって一番守りたいのは子どもの幸せで、そのために家族のプライバシーを守ろうと考えます。血のつながりを重視するわが国において、AIDを実施した(実施している)夫婦でさえ、倫理的に逸脱した体験と考える方もいます。
親の気持ちを示す数少ない調査結果として、「AIDにより児を得た夫婦の告知に対する考え方」堀井雅子氏(慶応義塾大学医学部産婦人科教室)があります。114カップル夫婦(AID児0〜11才)のアンケート結果から、これまでにAIDについて子どもに告知した両親はおらず、95%以上の両親が今後も告知を予定していないことがわかります。また、子どもがAIDについて知る機会があった場合、子どもにとって遺伝上の親を探すことに協力するつもりであると、回答したのは夫22%、妻16%でした(第48回日本不妊学会 発表収録より)。
筆者のAIDを実施している20名の女性の調査でも、「できれば子どもに告知したくない」「する必要はない」と回答した方は18名でした。その理由には、「子どもにとって、父親と血がつながっていない事実を知ることは、アイディンティーを揺さぶられる体験であるろうし、そんな辛い思いを大切な子どもにさせたくない」「生物学上の父親がどこかにいるということを子どもが知ることで、今まで築き上げて生きた家族の絆までも破壊してしまうのではないか」「子どもには自分の夫を本当の父親と思っていてほしい」を、揚げていました。それゆえに、彼女たちは、何らかのきっかけで、子どもにその事実が伝わる事をとても脅威に感じていました。自分たちのAIDについて他者に口外せず、夫婦二人の秘密として「お墓までもってゆく」と表現する女性も6名いました。
一方、「大切な子どもだから小さいうちから隠し事のないように話してゆきたい」という回答も2名ありました。また、「もし子どもが何らかのかたちで、出生の事実を知ったらどうするか?」の質問に、「子どもが小さかったら、ごまかすが、ある程度の年齢になったらきちんと話す」「望まれて生まれてきた子であることを誠意をもって話す」「ありのままの気持ちを話す」など、子どもに真摯に向かうという回答も7名ありました。
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