本文へジャンプ
非配偶者間人工授精の現状に関する調査研究会(DI研究会)

プロフィール
日本のAID事情
活動の記録
インフォメーション
AIDで生まれた方たちからのメッセージ
トップページへ

活動の記録:オーストラリア調査報告
オーストラリアにおけるAIDをめぐる法と制度

 日本では、2003年4月までに厚生科学審議会生殖補助医療部会によって、第三者から提供された精子・卵子・胚を使っての生殖補助医療のあり方について28回の審議が重ねられてきました。この審議結果に基づいて、現在、第三者の精子・卵子・胚を使った生殖補助医療に関する法の制定に向けて準備がすすめられています。
 オーストラリアでは、すでにヴィクトリア州、南オーストラリア州、西オーストラリア州でこのような生殖補助医療に関する法律が施行されています。その中でもヴィクトリア州は、第三者の精子・卵子・胚を使った生殖補助医療で生まれてきた子どもがドナーを知りたいといった場合には、ドナー個人を特定できる情報を得る権利を認めるなど、注目すべき特徴を持っています。また、ニュー・サウス・ウェールズ州でも生殖補助医療に関する法律を制定するために現在、準備がすすめられています。

 オーストラリアの生殖補助技術をめぐる法律については、次のURLを参照してください。
http://www.dhs.sa.gov.au/reproductive_technology/other.asp


各州におけるAIDをめぐる法と制度

*ヴィクトリア州

 ヴィクトリア州では、1995年に不妊治療法(Infertility Treatment Act)が採択され、この法律は1997年より施行されています。そして、現在ヴィクトリア州におけるAIDもこの法律に基づいて実施されています。不妊治療法は、1984年の生殖医療法(Infertility Medical Treatment Act)を改正したもので、AIDだけではなく主に体外受精についても定める法です。生殖医療法では、AIDも体外受精も法的な婚姻カップルに限定していたので、事実婚のカップルやシングル女性・レズビアンのカップルは子どもを望んでもこれらを受けることができませんでした。しかし、生殖医療の実施を婚姻カップルに限定することは、1984年の性差別法(Sex Discrimination Act)に触れるとして生殖医療法を改定し成立したのが不妊治療法です。
 法改正によって、不妊治療を求めている女性すべてが体外受精や提供精子・卵子・胚を使う生殖補助技術を受けられるようになりました。これにより、同居している事実婚のカップル(といっても、同居しているという証明まではもとめられませんが)もあらゆる生殖補助医療を受けることができるようになりました。しかし、レズビアンやシングルの女性は不妊ではないために、ヴィクトリア州では、現在もなおこうした女性たちは生殖補助医療を受けることはできません。したがって、レズビアンカップルやシングルの女性でこのよう医療技術を求める人たちは、現在もこうした規制のない州へ行き、このような技術を受けるケースがみられます。
 ヴィクトリア州の不妊治療法において、AIDなど第三者の精子・卵子・胚を利用した生殖医療で特徴的なのは、このような技術によって生まれた子どもの出自を知る権利を認め、尊重している点です。
 不妊治療法では、1998年以前に第3者から提供された精子・卵子・胚を使っての生殖補助技術(donor conception)で生まれた子どもは、18歳に達すると、ドナーの匿名性は守られながらも、ドナーの特徴や嗜好、家族暦などの情報にアクセスすることができます。また1998年1月以降にdonor conceptionによって生まれてきた子どもは、18歳になると、ドナーの氏名、年齢、精子提供したときにドナーが住んでいた住所など、ドナーを特定できる情報にアクセスすることができます。このようにドナーを特定できる情報をこうした技術で生まれた子どもに提供することを認めているのは、世界中でも、このオーストラリア・ヴィクトリア州と、スウェーデン、オーストリア、スイスなどまだわずかしかありません。

 ヴィクトリア州の1995年不妊治療法については次のURLを参照してください。
http://www.dms.dpc.vic.gov.au/l2d/I/ACT00971/1_2.html

*南オーストラリア州

 南オーストラリア州では、1988年に生殖技術法(Reproductive Technology Act)が成立しています。この法によって南オーストラリアでは、第三者の精子・卵子・胚で生まれた子どもは16歳に達するとドナー情報にアクセスすることができます。しかし、情報提供の際にはドナーの匿名性は守られ、子どもは誰がドナーであるかを知ることができません。

 南オーストラリア州におけるドナーの匿名性についての情報は次にURLを参照してください。
http://members.optushome.com.au/dcsg/legislation/legislation.html
南オーストラリア州生殖技術法については次のURLを参照してください。
http://www.austlii.edu.au/au/legis/sa/consol_act/rta1988279/index.html

*西オーストラリア州

 西オーストラリア州でも、1991年にヒト生殖技術法(Human Reproductive Technology Act )が成立しています。この法によって、1993年4月8日以降に第三者の精子・卵子・胚で生まれた子どもと、1993年4月8日以降にこの技術で子どもを持った親で生まれた子どもがまだ18歳に達していない場合は、その親がドナーを特定できない範囲の情報(身体的特徴、家族暦、学歴、職業、病歴、趣味・嗜好など)にアクセスすることができます。しかし、現在、ドナーになった人に個人の特定を可能とするような情報提供を呼びかける動きもみられます。

西オーストラリア州の遺伝的な親を知るための条件については次のURLを参照してください。
Voluntary Register, Department of Health, Government of Western Australia
http://www.voluntaryregister.health.wa.gov.au/publications/index.cfm
西オーストラリア州のヒト生殖技術法については次のURLを参照してください。
http://www.austlii.edu.au/au/legis/wa/consol_act/hrta1991331/
index.html#longtitle


このページの上へ

ヴィクトリア州におけるAIDをめぐる法と制度

 現在、日本では「第3者の精子・卵子・胚を使った生殖医療(donor conception)」について法制化への準備がすすめられていますが、この中ではこうした医療技術の実施に際し、ドナーに関する情報やレシピエントの情報などを管理する公的機関を設立することを盛り込んでいます。そして、提供精子・卵子・胚によって誕生した子どもが15歳に達し、その子が要望するならば、カウンセリングの後、その情報機関からドナーに関する情報を提供するようなシステムがつくられる方向で検討がすすめられています。
 オーストラリア・ヴィクトリア州の1995年の不妊治療法では、提供された精子・卵子・胚によって誕生した子どもがドナーの特定をも可能にする詳細な情報を得る権利が認められています。そこで、日本に法制化に先がけ、ヴィクトリア州ではどのような法と制度によって支えられてAIDが実施されているのか見てみましょう。

*1995年不妊治療法の4つの指針
 1995年の不妊治療法は4つの指針によって支えられています。
  1. 治療の結果生まれてきた、あるいは生まれてくるあらゆる人の福祉と利益が最優先される。
    The welfare and interests of any person born or to be borne as a result of a treatment procedure are paramount.
  2. 人の命は保護され、守られなければならない。
    Human life should be preserved and protected.
  3. 家族の利益が考慮されなければならない。
    The interests of the family should be considered.
  4. 不妊のカップルは子どもを持ちたいという希望を達成するために支援されなければならない。
    Infertile couples should be assisted in fulfilling their desire to have children.

*提供精子・卵子・胚を使った生殖補助医療を実施する施設、医師、臨床技師、研究者、カウンセラーの認定
 ヴィクトリア州では第三者の精子・卵子・胚を使用する生殖技術(Donor Conception)を実施するために、そのシステムを厳しく体系化しています。特に注目したいのは、このような技術を実施する施設、医師、臨床技師、研究者、カウンセラーを認定するシステムがしっかりとしている点であると言えるでしょう。また、体外受精や提供された精子・卵子・胚を使っての生殖技術を実施するにあたって、カウンセリングは非常に重要なものと位置づけられています。カウンセリングのあり方には、日本も今後学ぶところが多いと思われます。

*不妊治療局  (Infertility Treatment Authority ― ITA)
ヴィクトリア州では、1995年の不妊治療法(Infertility Treatment Act)の制定に伴い、不妊治療局(Infertility Treatment Authority―ITA)が独立法定局として設立されました。ここでは、ヴィクトリア州で実施される体外受精や第3者の精子・卵子・胚を使う生殖医療について管理統制しています。そして、こうした医療を実施するときや、またその実施後の結果について、医療機関は不妊治療局に届け出をしなければいけません。

☆不妊治療局の果たす役割
ヴィクトリア州では、生殖補助医療技術は、社会的にもさまざまな影響を及ぼす問題と認識されて、生殖補助技術に対して高い関心が持たれています。それは、多くの人々が生殖補助医療は、治療を受けている人だけでなく、そこから生まれてくる子どもや、精子や卵子、胚を提供する人とその家族、そして次世代の子どもたちなど、多くの人に影響を及ぼす重要な問題と考えているからです。またインフォームドコンセントのあり方、人の人生のはじまりについてのとらえ方、生まれてくる子どもの権利や福祉、ドナーとレシピエント、ドナーと生まれてくる子どもというような人間関係をめぐる問題も多く出てきます。
 このような問題に取り組むためにも、生殖補助医療技術の実施には、法的、社会的、専門的な統制の知識が必要です。不妊治療局はそのような統制の役割を果たし、ヴィクトリア州内における法の適用の強化にも貢献を果たしています。また実施の際にはさまざまな問題が出てきますが、それらの議論や医療技術、科学技術の審査などにおいても中心的な役割を果たしています。

☆不妊治療局は次のようなことを管轄しています
  • 体外受精(IVF)、配偶子内卵管移植(GIFT)および非配偶者間人工授精(DI)
  • 配偶子と胚の保存
☆不妊治療局は次のような目的を達成するために機能しています
  • 不妊治療に係る複雑な問題の理解をコミュニティーに促す。
  • 適切な情報とカウンセリングを、治療を求めている人に提供する。
  • 治療施設によるヘルスケアのスムーズな供給を支援する。
  • 生殖補助の供給において法が正しく実施され、ミスを監視するための情報収集と保管、およびその情報を必要なところに供給する。
  • 1995年の不妊治療法に基づき、議会に報告する。
☆不妊治療局が行っていること
  • 治療を行う施設および認可された研究機関へのライセンスの発行。
  • 医師、臨床技師/研究者(Clinical/research scientist)、カウンセラーの認定。
  • 不妊治療の過程で使用する精子、卵子、胚の保管に関連する法的期限の管理。
  • 精子、卵子、胚のヴィクトリア州への持ちこみや、ヴィクトリア州の外への持ち出しの認定と、ドナーを使った治療に関連する登録の管理。
  • ヴィクトリア州内の生殖補助技術に関する情報の監視を行うとともに、その結果を年次報告書(Annual report)を通して、健康省(Minister for Health)に報告する
  • 不妊治療法のもと、求められる研究の承認。
  • 健康省にアドバイスを提供する。
  • 精子・卵子・胚の提供者、および、これを使用したカップル、これによって生まれた子どもの登録。

☆不妊治療局のメンバーおよび委員会
 不妊治療局のメンバーは健康省によって選出され、州議会の州知事から任命されます。メンバーの任期は3年を上限として2期(6年)までであり、現在はJock Findlay教授が代表となり、Helen Szoke氏がそれをささえ、総勢7人のメンバーで不妊治療局全体は構成されています。
 メンバーの報酬は、年間8000〜16000豪ドルで、メンバーは不妊治療局以外に本業をもっています。メンバーは、不妊治療局での仕事に1週間に約半日を費やし、不妊治療局の代表になるとまる1日が局の仕事のためにとられるようになります。
 また不妊治療局内には、年次報告委員会(Annual Report Committee)、利害衝突委員会(Conflict of Interest Committee)、財務・人事委員会(Finance and Personnel Committee)、ライセンス認可委員会(Licensing and Approval Committee)、調査研究委員会(Research Committee)、保存委員会(Storage Committee)の6つの委員会が設けられています。

☆認定されている生殖補助医療実施施設、医師、臨床技師/研究者、カウンセラー
 2003年現在、ヴィクトリア州内で不妊治療局が認可している生殖補助医療施設は、分室もいれて全部で6ヶ所、また不妊治療局が認可している医師は45人、臨床技師は57人、研究者は4人、カウンセラーは27人となっています。

このページの上へ

ヴィクトリア州でのAID

 ヴィクトリア州では、25人に1人の男性が、医学的、また遺伝的な理由で父親になることができないといわれています。モナシュIVFという施設では、過去20年以上の間に1000人以上の子どもが非配偶者間人工授精のプログラムを通して生まれてきています。
 ヴィクトリア州での配偶子や胚の保存期間は通常5年です。この延長についての要求があったときには不妊治療局の保存委員会で検討し、決定が下されることになります。現在、ドナーが減少しているために、保存期間の延長を求める声が増えてきています。また州間での配偶子や胚のやりとりも保存委員会の管轄です。ヴィクトリア州では、商業目的による配偶子や胚の提供は禁止されており、また、名前のわからないドナー、海外のドナーも認めていません。このような禁止事項に触れていないかについては、保存委員会が監視しています。

*ドナー
 精子提供の場合は、最低1回カウンセリングを受けることが義務づけられています。(参考までに、卵子を提供する場合には最低3回のカウンセリングをうけることが義務づけられています。)カウンセリングでは特に、子どもが他の家庭に生まれるということ、自分の子どもの兄弟姉妹が他の家庭にいるということ、シングルでドナーになる場合にはその理由や動機などについて十分に考え、ドナーとなるか否かの自己決定を支援します。そして、カウンセリングの際に、同意書が渡され、ドナーは自宅に持ち帰り、十分に読んで検討した上で、カウンセラーが同意をとることになります。
 ドナーはカウンセリングを、無料で受けることができます。カウンセリングでドナーに何らかの問題があると判明した場合には、カウンセラーが、医師(General practitioner)に報告します。 ヴィクトリア州では液体(血液・骨髄など)の提供者には金銭を渡すことはできないという法律があるため、精子・卵子・胚のドナーに報酬が支払われることはありません。しかし、提供のための拘束時間への対価として、ドナーには時給30豪ドルが支給されます。精子のドナーの条件は次のようになっています。
  • 21歳から45歳であること。
  • 養子ではないこと。(家族全員の病歴が必要であるから。)
  • エイズの危険性がないこと。(the Tissue Donation Actでそのように定められている。)
  • またB型C型肝炎の検査、性病、嚢胞性腺維症の検査、血液型を知るために血液検査を受ける必要があり、コンセントフォームにサインする必要がある。
  • 結婚している場合は、パートナーの同意も必要。
 ドナーは提供の時に、本人であることを証明できる写真のついた身分証明書(パスポートや免許書)を持参する必要があります。提供は10家族まで可能で、ドナーが亡くなった場合には、提供された精子や卵子は使うことができなくなります。また亡くなった夫の身体から採取した精子を使って妻が妊娠したいという場合についても、不妊治療局では認めていません。

*レシピエント
 現在、ヴィクトリア州ではシングルマザーは国からの経済的な支援を得ることができるため、養子に出すケースが少なくなっています。また、フォスターファミリーの制度があることも影響して、養子を迎えることがむずかしくなっています。そのために提供された精子・卵子・胚への需要が増えてきています。
 レシピエント(提供を受ける人)は、カウンセリングで、子どもが生まれた後のことを、配偶者も同席した上で質問をし、AIDという選択について再度慎重に検討するように促します。カウンセリング料は無料で、カウンセリングは夫婦両方が受けなければいけません。カウンセリングを受ける回数は、カウンセラーが個々のレシピエントの状況を見ながら判断します。そしてドナーだけでなく、レシピエントもHIV検査、B型C型肝炎の検査、性病、嚢胞性腺維症の危険性の検査、血液型を知るために血液検査を受ける必要があります。これらの手続きをすべて経て、最後にコンセントフォームにサインことになります。
 レシピエントは、ドナーの人種的起源(Racial origin)身体的な特徴、病歴、血液型などをみて、最終的にその精子を使うかどうかを決断します。ヴィクトリア州では、自分で人工授精すること(self-insemination)は法律で禁止されており、これを破った場合は、48,000豪ドルの罰金か4年の禁固刑、もしくはその両方が課せられます。

*AIDに関する情報管理・情報提供
 医療機関は、実施した生殖補助医療の件数、およびその後の結果、および提供配偶子や胚を利用しての生殖医療を実施した場合には、そのドナー、レシピエント、生まれた子どもについての情報を、すべて不妊治療局に報告する義務があります。またAIDを受けた人は流産をしても、出産をしても届け出なければなりません。
 医療機関は、提供された配偶子や胚を利用して子どもを持った親に対して、その事実を子どもに告げることを奨励しています。提供精子や卵子・胚を使っての生殖医療で生まれた子どもがドナーの情報を得たい場合には、その子どもが18歳になった時点でカウンセリングを受けた上で、情報が提供されます。ヴィクトリア州では21歳から成人とみなされますが、18歳から酒、タバコ、車の運転も認められ、18歳は感情的にも身体的にも十分に大人になったとみなされる年齢であるため、この情報開示の年齢も18歳に定められました。このため、出自に関する情報の入手も18歳と定められました。ドナーに関する情報の内容は、ドナー個人を特定できる情報、具体的には名前、出生年(提供したときの年齢)、提供したときに住んでいた住所、身体的特徴、人種的起源、学歴、職業、病歴、嗜好や趣味などです。
 
*一般の人々
 ヴィクトリア州では、一般の人にも提供精子・卵子・胚を使っての生殖技術について理解してもらうために、こうした技術で誕生した家族などのストーリーをメディアやまた医療機関にパンフレットを置くなどして、たくさんみせるようにしています。

このページの上へ

ニュー・サウス・ウェールズ州におけるAIDをめぐる法制定の動き

 ニュー・サウス・ウェールズ州では、これまでAIDなど提供された精子・卵子・胚を使っての生殖補助医療(donor conception)に対する法的な規制は存在しませんでした。しかし、これらの技術を通して生まれてきた子どもやその親が、近年次第にドナーについての情報を求めて声をあげるようになり、このような状況から、生殖補助医療に対する何らかの法の必要が認識されるようになってきました。ニューサウス・ウェールズ州では、近年、こうした生殖補助医療に関する法の制定にむけて準備がすすめられています。そして、早ければ2003年の暮れにも議会に提出され、議会を通過すると推測されています。

*ヒト組織法(Human Tissue Act)
 ニュー・サウス・ウェールズ州のAIDを含む提供精子・卵子・胚を利用した生殖技術に関する法には、他のさまざまな法律に影響を受けています。たとえば、1955年には、角膜組織移植法(the Corneal and Tissue Grafting Act)が制定され、1966年にはこれが移植手続法(the Tissue Grafting and Processing Act)になり、移植目的と同様に治療のために組織が採取されることへの適用を定めるよう、解釈が拡大されました。
 そして1977年、オーストラリア法改革委員会(the Australian Law Reform Commission−ALRC)は、人体や採取したものの保存や使用、また手術や治療、移植、教育や研究を目的とした臓器や組織の保存や使用について取り組みはじめたのです。ALRCが法案をつくり、これが1983年のヒト組織法(Human Tissue Act)の基本となりました。この法の中では、(1)生きている成人および子どもから提供された組織、(2)献血、(3)死後に採取した組織、(4)検死、(5)組織の売買の禁止などが扱われました。
 1985年になると、移植によるHIV感染の問題が増加し、献血や精子の提供の前に、ドナーをきちんとスクリーニングすることを定める法修正につながりました。それは、レシピエントを守るためというより、適切な環境を備える施設で血液や精子を採取し提供したにもかかわらず、そこで採られた血液や精子から感染が発覚し、提供した人すべてにHIV感染の疑いがかけられたことに端を発しています。このように1987年の修正法は、精子や血液、血小板や骨髄など血液から作られるものの提供者のプライバシーを守る目的で作られています。このような経緯もあり、ニュー・サウス・ウェールズ州の精子バンクや血液バンクは、すべてNSW Healthに登録することになりました。そして、精子や血液の規制はできたのですが、これは感染に対する規制のみで、このような状況は1996年まで続きました。

Human Tissue Actについては次のURLを参照してください。
http://www.austlii.edu.au/au/legis/nsw/consol_act/hta1983160/
index.html#longtitle

*法制定への動き
 ニュー・サウス・ウェールズ州でもAIDの歴史は長いのですが、AIDの実施に際し、ドナーの情報は提供されてきませんでした。しかし、このようにHIV感染などが問題になると、AIDで子どもを持った親や子どもから、ドナーについて遺伝的な親について知りたいという問い合わせが多く来るようになりました。
 これを受けて、ニューサウス・ウェールズ州の健康省では、AIDに限定せず、すべての生殖補助医療についてその実施の状況を調べることになりました。そして討議資料(Discussion paper)を作成し、11000部を発行して、医者や他の専門家、一般の人々などに配布し、インターネットでも提供しました。こうしたことを通して、多くの人に生殖補助医療のありかたについての意見を求めました。

Discussion paperに関する情報は次のURLをご覧ください。
http://www.health.nsw.gov.au/csd/llsb/art/contents.htm

*ニュー・サウス・ウェールズ州における法制定後のAID
 ニュー・サウス・ウェールズ州において、法が施行されるようになった後にAIDがどのように変化する可能性があるかについて、健康省の担当者に聞いてみました。それによれば、AIDの歴史は長く、現在もAIDを求める人も多いので実施件数が少なくなることはないのではないかという答えがもどってきました。ニュー・サウス・ウェールズ健康省(NSW Health)では、AIDを受けようとする人に十分な情報を提供する必要があり、それらの人々が将来起こりえることについても理解し、特に生まれてくる子どもが出自を知りたがる場合についても考慮していく必要があると考えているようです。またニュー・サウス・ウェールズ州では、今はレズビアンカップルやシングルの女性がAIDを受けることができますが、法律ができた後は、このような女性たちは不妊ではないためにAIDを受けることができなくなるだろうと話していました。しかし、ニュー・サウス・ウェールズ州には差別禁止法があり、夫婦だけに限定することが差別であるという考え方があるため、法律ではこれらの女性がAIDを受けることを禁止するとは明示されないそうです。
 またニュー・サウス・ウェールズ州でも提供された精子・卵子・胚で子どもを持ったことをオープンにしにくい文化がありますが、法律ができることによって、親が子どもに言いやすい環境ができるのではないかということを話してくれました。ドナーの子どもやAIDで生まれた子どもが集まって話せるグループができることも期待しているそうです。

(文責 : 仙波由加里)

このページの上へ